Negotiation
の本の最初に、アメリカには二種類の価格がある、交渉をした価格と交渉をしていない価格、と書かれていた。Macy'sで購入したネクタイに瑕疵があり値引きを要求したことや雑誌の定期購読を長期契約にするからと値引きを要求した例などが書かれている。デパートで買ったネクタイの糸がほつれていたのなら交換の要求をした方がよいのではないか、とか、雑誌の定期購読なら、News
WeekやTimeのダイレクトメールにはこちらが要求するまでもなく長期割引価格が書かれている。
などとのんびり考えていたら次回までの宿題が示される。
「値切った経験談をレポートにして提出すること。」
ご無体な。生活必需品や食料品の買い物をするのにようやく慣れてきた程度で誰とどうやって何を交渉するの?
困り果てて「私もその宿題を提出しなければなりませんか? アメリカに到着して日が浅いのでできないと思うんですけど」という間の抜けた質問そしたところ、教授は不思議そうに「日本人は値切らないの?」
とたんに周囲のJDたちが、アメリカ人だって値切らない、いや時と場合による、普通はしないだろう、と一斉にしゃべりだす。要するに全員困惑していたのだ。
ということでこのクラスでsurvive
するつもりなら数日以内に適当な状況を見つけて値切らないといけなくなった。
日曜日のfarmer's
marketでorganic
tomatoを買うとき安くしてもらえるか尋ねると、売り手は少し不機嫌にもう一つ箱から持って来るように言い、合計額の端数を少し切り捨てた。これだと必要以上の量を買わされただけで、値切ったというお得感はない。でも宿題のレポートにはおもしろいネタかもしれない。とりあえず最初の宿題クリア。
翌週の授業でそれぞれの体験の発表がすごかった。電車の運賃を駅員と交渉した人、本屋で交渉した人、近所のピザ屋の配達の車を見つけ、常連客だと言って乗せて帰ってくれるよう交渉したうえ、その乗車賃まで交渉した人。自分のしたことがものすごく常識の範囲内の行動に思えてきた。
この授業は毎回おそろしい宿題がでる。最初は宿題の内容を聞くたびに無理、と思っていたが、普段とても言い出せないようなことでも、心の中で、相手に対し、ごめんなさい、宿題なんです、と言い訳をしながらだとたいていのことが言える。その後のアメリカでの生活で、この授業をとっていてよかった、と思うことが何度もあった。